大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「あ、あの……旦那様、その……」

 目の前に立つ花奏の妙に色っぽい姿に、思わずうつむいた志乃は、緊張してしまい、うまく言葉が出てこない。

 そんな志乃の様子にくすりとほほ笑むと、花奏は優しく志乃を抱き寄せ部屋に招き入れた。


「旦那様……」

 志乃は思わずぽーっと、麗しい花奏を見上げてしまう。

 花奏は志乃の潤んだ瞳を覗き込むと、志乃の顎先を指で持ち上げ、そっと口づけをした。

 花奏の香りがほのかに漂い、志乃の鼓動は今までにない速さで叩き出す。

 花奏は、そんな志乃の様子に気がついたのか、志乃を優しく包み込むように抱きしめた。


 志乃は抱きしめられながら、じっと耳を澄ます。

 耳に響くのは花奏の心臓の音だろうか?

 トクトクと高鳴るその音は、次第に速さを増している。


 ――旦那様も、どきどきとなさっているの……?


 志乃が小さく顔を上げた時、花奏がゆっくりと口を開いた。


「志乃……。俺は、お前はまだ若く、幼い娘だと思っていたのだ」

「え?」

「でも、今日皆の前で箏を弾く志乃の姿を見て、それは間違いだったと気がついた」

 花奏は愛しそうに志乃を見つめると、志乃の髪をそっと指ですくう。
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