大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃はとても気高く美しい、立派な大人の女性だったのだ」

「旦那様……」

 志乃を見つめる花奏の瞳は熱く、じりじりと今にも溶かされてしまいそうだ。

 志乃は吸い込まれるように、その瞳をじっと見つめた。

 すると花奏が、まるで困った少年のような顔で眉を下げる。


「志乃、もうよいだろうか? 俺はお前が愛しくてたまらん」

 そう口を開く花奏に、志乃の心はきゅっと掴まれたようになる。

 いつだって大人の余裕を見せ、冷静でいる花奏も、こんな顔をする時があるのか。


 ――今日は、いろんな旦那様のお顔を見られて、なんて幸せなの……。


 志乃はくすりと肩を揺らすと、腕を伸ばしてそっと花奏の熱い頬に触れる。

「はい、旦那様……」

 志乃の声が小さく響いた途端、花奏は志乃を両手で抱え上げた。


「きゃ……」

 身体がふわりと浮く感覚に、志乃は思わず軽く悲鳴を上げると、花奏の首元に腕を回す。

 浴衣の裾をひらりとなびかせながら、花奏に抱き上げられた志乃は、気がつけば部屋の中央に敷かれた布団に、そっと横たえられていた。
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