大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

二人きりの外出

 松の内もすぎ、ようやく皆が日常を取り戻した頃、志乃は花奏とともに商店が多く集まる、港近くの街まで来ていた。

 今日は志乃の実家へ、花奏と二人で訪ねることになっている。

 元々は正月の挨拶がてら訪ねる予定だったが、エドワードの一件があり、時期を逃していたのだ。

 はじめ志乃は、花奏に出向いてもらうだけで充分だと思っていた。

 でも花奏が、母や妹たちに土産物でも買っていってはどうかと提案してくれ、実家に行く前に、久しぶりに賑やかな通りへと立ち寄ったのだ。


 活気のある声が飛び交う街は、久しぶりにワクワクと心が弾む。

 いくつかの店先を覗き込み、足取りも軽く歩いていた志乃は、どこからか甘い香りが漂って来たのを感じて、ふと足を止めた。

 匂いの先を辿るように見上げた暖簾の奥では、職人がお菓子を焼いているのが見える。


「まぁ、きんつばだわ」

 志乃は思わず声を上げると、奥を覗き込むように、つま先立ちになりながら首を伸ばした。
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