大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 熱い鉄板の上でジュウジュウと薄い焼き色をつけたきんつばは、とても上品で、周囲にほんのりと甘い香りを漂わせている。

「きんつばは、母の大好物なのです」

 少し興奮したように顔を上げる志乃に、花奏はにっこりとほほ笑んだ。

「それはよい。ではこれを土産にしたら、母上も喜ぶであろう」

 花奏の声に瞳を輝かせた志乃だったが、多くの人が並ぶ列を見て途端に尻込みする。


「でも、あんなに行列が……。これでは、旦那様をお待たせしてしまいます」

 落ち込んだように志乃がうつむくと、花奏は大きく首を横に振った。

「何を言っておる。せっかくなのだから、買っていけばよい。俺は近くの店でも見て待っておるから、志乃は気にせずに求めてくればよい」

 花奏の声に志乃はパッと笑顔を咲かせると「はい」と元気に返事をする。

「では旦那様、少し行ってまいります」

 志乃は満面の笑みでそう言うと、きんつばを求める人で賑わう店先に小走りで向かった。
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