大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃の弾むような背中を見送った花奏は、ゆっくりと街の中を巡る。

 このように穏やかな気持ちで、街中を歩くのは何年ぶりだろう。

「すべて、志乃のおかげだな……」

 そうつぶやいた花奏は、ふとよく見覚えのある暖簾を見つけて足を止めた。


 藍色に染められ、真ん中に白い家紋を表した暖簾をしばらく見つめていた花奏は、何かを思いついたように自分にうなずく。

「あぁ、そうだな……」

 花奏は小さくつぶやくと、ゆっくりと店へと足を向けた。

 すると店先の掃き掃除をするために、暖簾をくぐって現れた小僧と目が合ってしまう。

 小僧は花奏の顔を見つけるなり「いらっしゃいまし!」と、飛び跳ねながら大きな声を出すと、慌てて暖簾の奥に引っ込んだ。


 花奏が不思議そうに見ていると、今度は(うやうや)しく手をこねながら、良く見知った顔の番頭が現れた。

「これはこれは、斎宮司様。ようこそおいでで。ここはお寒うございますから、どうぞどうぞ、中へお入りください」

 番頭は手際よく花奏を店の中へと案内すると、すぐ小僧に「女将(おかみ)を呼んでおくれ」と声をかける。
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