大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏が店先の座布団に腰を掛けて待っていると、今度は「まぁまぁまぁ」と明るい声とともに、ふくよかな女将が、いつもの品の良い笑顔をたたえながら現れた。

「斎宮司様の坊ちゃん、ようこそおいでくださいました。お寒くはございませぬか?」

 女将は満面の笑みでそう言うと、小僧に火鉢(ひばち)を近くに寄せるように声をかける。

「いや、気にせずに」

 花奏は小さく声を出すと、脇に置かれた湯飲みに手を伸ばした。


 女将はしばらく、花奏の隣に正座すると、にこにことその様子を見ていたが、急にずいっと顔を覗き込ませる。

「以前お仕立ていたしました着物は、いかがでございましたか?」

「う、うむ。なかなか良い出来であった……」

 茶にむせそうになった花奏は、慌てて湯飲みを盆に戻しながら硬い声を出した。

 すると女将は、歓喜したように大きく手を広げる。

「それはそうでございましょう。なんせあの(しゃ)の反物は、入ったばかりの上物でしたから……」

 すると女将は、チラリと横目で花奏の顔を覗いた。
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