大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「それにしても、どなたがお召しになったのやら……」

 女将のいやらしい目線に、花奏はわざと表情を厳しくすると、一回大きく咳ばらいをする。

「あれは、その……妻が着て出かけたのだ」

 照れたように急に声が小さくなる花奏に、女将はこれぞとばかりに目を見開く。

「まぁ!! 奥様が!?」

 女将の叫び声に、周りにいた番頭たちもギョッと顔を上げている。

 花奏は今更ながら、ここに立ち寄ったことを少し後悔していた。


 女将はしばらく放心したようにのけ反っていたが、気を取り直すと再び花奏に顔を覗き込ませる。

「……して、今日はどのようなご用件で?」

「う、うむ。実は……」

「はい」

小間物(こまもの)を一つ……」

「小間物を?」

「見繕ってもらおうかと思い……」

「まぁ! つまり、奥様への贈り物でございますね!?」

 女将はバッと立ち上がると「少々お待ちを!」と叫び声を上げて、店の奥へと消えていく。

 呆気にとられた花奏がしばし放心したように待っていると、女将は何やら小箱を両手に乗せて現れた。

 花奏の前に再び腰を下ろした女将は、細長い小箱を(うやうや)しく両手で花奏の前に置くと、そっと蓋を開ける。
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