大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「こちらなど、いかがでございましょう?」

 女将の顔つきは自信満々だ。

「この可憐な装いなどは、きっと水色の着物がお似合いになる奥様に、ぴったりかと」

 ずいっと顔を覗き込ませる女将の勢いに()されるように、そっと箱の中を覗き込んだ花奏は、途端に目を丸くする。

 小箱に入った品は、決して派手ではないが、上品なデザインは質の良さを物語っており、繊細な細工などはまさに職人技。

 すぐにこれを持ってくるところを見ると、この女将ただものではない……。

 花奏が納得したようにうなずくと、女将は満足げに大きくうなずき返した。


「毎度ありがとうございました」

 女将や番頭に見送られ、花奏は店を後にすると、手にした小箱をそっと撫でる。

 これを渡したら、志乃はどんな顔をするだろうか。

 ふと自分の心が躍っていることに気がつき、花奏は慌てて取り繕うように咳ばらいをした。


「このような思いができるのも、志乃のおかげだな……」

 花奏は小さくつぶやくと、小箱をそっと着物の懐に忍ばせる。

 そして買い物を終えた志乃を迎えに行くため、再び商店が建ち並ぶ通りに足を向けたのだ。
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