大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「旦那様、今日は本当にありがとうございました」

 実家を後にした志乃は、隣をゆっくりと歩く花奏を見上げる。

 花奏は海風に長い髪を揺らしながら、にっこりとほほ笑んだ。


「そういえば、母とは何を話されていたのですか?」

 志乃は先ほどの実家での様子を思い出して、小さく首を傾げる。

 皆がきんつばに舌鼓をうっている時、志乃は奥でお茶のお代わりを入れていた。

 湯飲みを盆に乗せた志乃がふと顔を覗かせると、花奏は母と何やら話をしていたのだ。

 母は溢れる涙を何度も拭い、そんな母に親しみを込めて手を差し伸べた花奏の様子が、とても印象的だった。


 花奏は「そうだな」と小さく声を出すと、海沿いに目線を向ける。

 空気が澄んだ冬の海は岬がよく見渡せ、常緑樹が茂る山々はこの時期も青々と美しい。

 花奏はしばらく考えるように口をつぐんでいたが、ゆっくりと志乃を振り返った。


「お母上は、香織のことを知った上で、志乃を俺の元へ嫁がせると決めたのだそうだ」

「え……? どういうことですか?」

 志乃は呆然としたように、目を丸くする。
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