大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 あの時の志乃の縁談は、これからの生活に途方に暮れていた志乃たち一家に、降って湧いたような話だった。

 五木が訪ねて来た時も、縁談の相手が“死神”だとは、母も知らないことだと言っていた。

 それがまさか、香織のことを知っていたとは……。


「香織の箏の師匠はな、志乃の師匠と同じ方なのだ」

お師匠様(おっしょうさま)が!?」

 志乃は驚いて声を上げる。


 『これも何かの縁。田所先生からお話をいただいた時、志乃を嫁がせるならば、斎宮司様より他はないと思いました。ですから縁談の行方を、お師匠様に託したのです』


 母はそう言っていたそうだ。

 病に倒れ、自分の身体だけでなく家族の先行きも不安な中、藁をもすがる思いで母が決めた志乃の嫁入り。

 それでも母は、大切な娘が少しでも幸せに暮らせるようにと、願っていてくれたのだ。


 ――私がお師匠様を訪ねた日、お母さんから託された手紙には、そのことが書いてあったのだわ。


 志乃は開け放たれた座敷で箏を弾いた日を、懐かしむように思い出す。


「香織が、志乃との縁を、繋いでくれたのかも知れん」

 すると花奏が低い声を出した。
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