大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「香織様が……」

「あぁ、そうだ。いつまでも過去に閉じこもったままの兄に『いい加減、目を覚ませ』と、言いたかったのかも知れぬな」

 花奏がくすりと肩を揺らし、志乃は潤んできた目尻の涙を拭うと、一緒にくすくすと笑い声をたてる。

 二人はしばらく肩を寄せ合ってほほ笑み合っていたが、花奏は志乃に向き直ると、まっすぐに瞳を向けた。


「皆に、感謝せねばならぬな」

 花奏の声に、志乃は深くうなずく。

「はい。皆さまの想いに支えられたからこそ、私は旦那様と夫婦(めおと)になれたのですね」

 志乃は再び潤みだした瞳を上げると、花奏とほほ笑み合う。


 今志乃がこうして花奏の隣を歩けるのは、皆の支えがあったからだ。

 志乃の脳裏に、これまでに関わった一人一人の顔が浮かんでいた。

 きっと誰ひとり欠けたとしても、この幸せな未来はやってこなかっただろう。


「志乃」

 すると花奏がぴたりと足を止める。

「もう一つ寄りたいところがあるのだが、よいだろうか?」

「寄りたいところですか?」

「あぁ、そうだ。志乃とともに行きたいのだ」

 志乃は小さく首を傾げていたが、花奏の真っすぐな瞳に、こくりとうなずいた。
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