大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

風がはこんだ奇跡

 志乃は息を上げながら、急斜面に設けられた、石造りの階段を上っていく。

 前を行く花奏は、時折振り返っては、志乃の様子を気にかけてくれた。


 この辺りは山を切り開いた急斜面に、家が建ち並ぶ地域だ。

 下に広がる平地に軍の主要な施設が建設されたため、その周囲を取り囲む急斜面に住居が建てられた。

 新たに移り住んできた軍の関係者の邸宅も多く、とてもモダンな装いをしているお屋敷が目立つ。

 志乃は花奏に手を引かれながら、豪華な門構えの家の横を通り過ぎた。


 目が回りそうなほど続く階段を一段一段踏みしめて、やっとのことで上りきると、途端に目の前に開けた場所が広がる。

 背に風を受けながら細い通りを進み見えてきたのは、まるで高台から海をのぞむように建てられたお墓の数々だった。


「まぁ、もしかして。ここに斎宮司家のお墓が……?」

 見上げた志乃の声に静かにうなずくと、花奏はそのまま足を進める。

 そして、いくつか建ち並ぶ墓の前をすぎた突き当りで足を止めた。

 見ると敷地の真ん中には大きな墓石が置かれており、その周りには所狭しと小さな墓石がいくつも置かれている。
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