大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 二人が手を繋いだまま墓の前を離れると、港の方から船の大きな汽笛が聞こえてくる。

 音のする方へ足を向けると、一面に海が見渡せる場所に出た。

 ゆっくりと傾きだした日は、夕凪の海を次第に橙色(だいだいいろ)に染めている。

 すると花奏が「そうであった……」と何かを思い出すようにつぶやき、懐から細長い小箱を取り出した。

「これを志乃に……」

 そっと小箱の蓋を開いた花奏の手元を覗き込んだ志乃は、はっと目を丸くする。

 そこには深い金色(こんじき)に輝く、かんざしが入っていた。


「だ、旦那様……これは……?」

 志乃が大きく見開いた瞳を向けると、花奏は嬉しそうにほほ笑んだ。

「先程、志乃を待っている時に求めたのだ。今まで色々あり、ろくに贈り物もしていなかったと気がついてな」

 照れたように頭に手をやる花奏に、志乃は身を乗り出す。

「そんな! 私は旦那様から、十分すぎるほど色々なものを頂戴していますのに……」

 眉を下げる志乃に首を振ると、花奏はかんざしを箱から取り出し、志乃の手にそっとのせる。

 志乃は瞳を潤ませながら、大切そうに両手で持ったかんざしを目の前に掲げた。
< 257 / 273 >

この作品をシェア

pagetop