大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「これで、どうだ?」

 すると、かんざしをつけ終えた花奏が手を離し、志乃の顔を覗き込む。

「ありがとう存じます……」

 志乃がほほ笑みながら、花奏を見上げた瞬間。

 凪いでいた海から山の方へと、突然強い風が吹き込んできた。


「きゃ」

 志乃は思わず小さく悲鳴を上げ、花奏の腕に縋りつく。

 花奏は志乃を守るように、ぐっと身体を引き寄せた。

 強い風はしばらく二人の辺りを回っていたが、やがて静かに流れるように去っていった。


「もう大丈夫だ」

 花奏の声に、固く閉じていた目をそうっと開けた志乃は、急に後ろ髪に刺激を感じて慌てて手をやった。

 先ほど花奏につけてもらったかんざしに、何かが引っかかったような気がしたのだ。

 すると志乃は、手に触れたものに慌てて声を出す。


「大変です。旦那様の御髪(おぐし)が……」

 どうも風に舞った花奏の長い髪が、志乃のかんざしに絡んでしまったようなのだ。

 志乃は再び手を後ろに回すと、見えないまま、かんざしから花奏の髪を外そうとする。

 でも花奏の細くしなやかな髪は、余計に絡んでしまい外すことができない。


「志乃、慌てるな。大事(だいじ)ない」

 すると花奏が落ち着いた声を出し、志乃の手をそっと下におろす。
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