大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「そろそろ、夕ご飯の準備をしなくちゃね」

 志乃はわざと明るい声でそう言うと、いそいそと土間に下りた。

 鼻歌を歌うように割烹着(かっぽうぎ)を羽織った志乃は、そっと茶の間の様子を伺う。


 藤はまだ幼いが、華はなかなか繊細で、ちょっとした変化にも目ざとく気がつく子だ。

 ヘタに志乃が暗い顔をしたら、何かあったのではと、心配することは目に見えている。


「ちょっとそこまで、お豆腐買ってくるね」

 志乃は空の鍋を手に持つと、再び元気いっぱいに声をかけた。

「いってらっしゃーい」

 上機嫌な声を出す二人の声を背中で聞きながら、志乃は玄関の引き戸をぐっと開く。

 そのまま後ろ手で戸を閉じると、その場にうずくまるようにしゃがみ込んだ。


 二人があんなにも、子どもらしい笑顔を見せるのは久しぶりだ。

 母が(とこ)にふせってからというもの、妹たちは幼いなりに、志乃を支えようとしてくれていたのだと思う。

 志乃の心はぎゅっと掴まれたように苦しくなる。

 五木の話を受け、お嫁に行くことを了承すれば、これからも二人の妹たちには苦労をかけずにすむだろう。
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