大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「外れるでしょうか?」

 志乃が声を出した瞬間、花奏はかんざしに絡んだ自分の髪を、手でぷちんと切った。

 志乃ははっと息を止める。

「旦那……様……?」


 香織が亡くなってから、一度も切っていないという花奏の髪。

 “懺悔(ざんげ)(あかし)”となっていたその髪を、今花奏が己の手で切ったのだ。


「旦那様……」

 志乃はもう一度そう呼びかけると、溢れ出す涙をこぼしながら、花奏の顔を見上げる。

 花奏はしばし呆然としたように自分の手を見つめていたが、手のひらに残る切れた髪をぐっと握り締めると、潤んだ瞳を志乃に向けた。


「あぁ、そうだ。志乃にもう一つ頼みがあったな」

「はい……」

「俺の髪を、志乃に切ってもらいたいのだ。もう俺には、この髪は必要ない」

 花奏の声は涙で震えている。

 志乃は溢れる涙をそのままに、ぎゅっと瞳を閉じてから再び花奏を見上げた。


「はい、もちろんです……旦那様」

 噛みしめるように声を出す志乃の手を、花奏がしっかりと握り締める。

 手に手を取り合い、お互いを愛しいまなざしで見つめ合う二人を、穏やかな夕暮れは、いつまでもいつまでも、包み込むように照らし続けた。
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