大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 次第に温かさが増し、桜の花も満開を迎えたころ、志乃と花奏の生活には、少しの変化が訪れていた。

「志乃、寒くはないか?」

 縁側でぼんやりと桜が散るさまを眺めていた志乃に、花奏がそっと羽織をかけてくれる。

「旦那様。ありがとうございます」

 志乃は羽織をきゅっと握り締めると、隣に腰かける花奏の横顔を見上げた。


 最近の花奏は、心配しすぎだと思うほど、志乃の体調を気にかけ優しく(いた)わってくれる。

「これでは先が思いやられますなぁ」

 五木の呆れる声を聞きつつも、志乃はそんな花奏がますます愛しくてたまらなかった。


 志乃がじっと花奏を見つめていると、風に吹かれた花びらが、ひらひらと舞いながら花奏の髪に止まる。

「まぁ、旦那様の髪に……」

 志乃は短く切りそろえられた花奏の髪に手を伸ばすと、薄桃色の花びらをそっと指でつまんだ。

「旦那様のお側が、居心地がよかったのですね」

 くすりと肩を揺らした志乃に、花奏は嬉しそうにほほ笑む。

 二人の間を柔らかな春の風が吹きぬけ、志乃の指先から花びらを再び空へと舞わせた。
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