大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃はふと我に返ると、演奏の準備が進む、前の舞台に目をやった。

 あれから志乃は花奏とともに、慈善会の立ち上げに尽力してきた。

 そして今、集まった有志の人々の数は驚くほど増えている。

 今回の演奏会が実現できるのも、その人たちのおかげだ。


 志乃は皆に目を向ける。

 舞台の上では、お師匠様が唯子や門下生(もんかせい)らとともに、箏の演奏の準備を着々と進めていた。

 その脇では、田所が仲間の医師たちと講演の打ち合わせをしている。

 そしてこの会の開催のために、事務方として積極的に動いてくれた谷崎親子。


 ――皆の支えがなければ、今日の日を迎えることはできなかった……。


 志乃の脳裏には、今まで志乃と花奏を見守ってくれた、五木や母、華や藤といった家族の笑顔も浮かんでくる。


 ――あぁ、みんなありがとう……。


 気がつけば、すでに感極まった志乃の瞳には、もう溢れんばかりの涙が溜まっていた。

 そして(こら)えきれなくなった涙は、志乃のほんの少し大きくなってきたお腹の辺りに、ぽつりと零れる。

 その瞬間、志乃は自分が感じたものに、はっと息を止めた。


 ――今のは……もしや……?
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