大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

死神の家

「こちらがお屋敷になります」

 五木に連れられて来た先は、志乃の住む街よりも東の、小高い山に囲まれた地域だった。

 この辺りは家もまばらで、少し寂しい印象を受ける。


「こちらが入り口です」

 すると五木が急に腰をかがめ、低い木の戸を開いた。

「え? ここ?」

 志乃はギョッとするとまじまじと辺りを伺う。

 竹がうっそうと茂る林は、まるでこの奥にあるものを隠すかのようだ。

 五木が戸を開かなければ、ここに入り口があることすら、わからなかっただろう。


 戸惑う志乃をそのままに、五木はさっさと中へと入ってしまった。

 志乃はもう一度辺りをじっくりと見まわした。

 表には表札も出ておらず、この奥に家があるのかも、誰が住んでいるのかも、外の人からは皆目見当がつかない。

「本当に死神が住んでいそうな所……」

 ぶるっと背すじに寒気を感じ、志乃は両手で自分の身体をぎゅっと抱きしめる。

 そして勇気を出し「ギギッ」と音のする戸を開いた。
< 28 / 273 >

この作品をシェア

pagetop