大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃様、こちらへ」

 すると少し先の方から五木の声が聞こえる。

「は、はい」

 志乃は緊張した声を出すと、意を決して一歩足を進めた。


 でも敷地内に入った志乃は、中の様子を見て途端に目を丸くする。

 ただ竹藪が続いているのかと思っていた先には、立派な庭園が広がり、鯉の泳ぐたいそう大きな池まであるではないか。

 そして目線を上げると、背後を竹林に囲まれるように、趣のある落ち着いたお屋敷が建っていた。

 お屋敷は一見地味に見えるが、志乃から見ても由緒正しきお屋敷だとわかるほど荘厳で、職人が時間をかけて丁寧に仕事をしたことがわかる建物だった。


 志乃は庭に敷かれた砂利道を、下駄で踏みしめるように進む。

 そうして、ようやく玄関の引き戸の前まで来ると、そっと首を伸ばして開いた隙間から中を覗き込んだ。

 風通しの良い廊下は、掃除が行き届いているのか黒く光っており、清々しさを感じさせた。

 それにしてもこんなに大きなお屋敷なのに、中はしーんと静まり返って物音ひとつしない。
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