大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 死神の正体もわからぬまま、志乃の死神の家での生活が始まった。

 死神の家の朝は早い。

 まず一番の仕事は、仏間の清掃からはじまる。

 志乃は仏間の障子を開けると、朝日の差し込む中、軽く部屋の掃き掃除を始めた。


 初めてこの仏間に案内された日、志乃はその豪華な仏壇にも圧倒されたが、何より驚いたのが位牌(いはい)の多さだった。

「どれだけご先祖様がいたら、この数になるのよ」

 呆れる志乃に五木が横から顔を覗かせる。

「こちらでは月命日(つきめいにち)には、お庭の花を摘んで供えておりますので、お忘れなきように……」

 志乃はじっとりと五木の顔を睨みつける。

 これだけの位牌の数だ。

 命日が重なることがあったとしても、ほぼひと月のすべての日にちを網羅していそうだ。

「つまりは毎日が月命日ってことね」

「いえいえ、時にはそうでない日もございますよ」

 ため息をつく志乃に、五木はフォッフォッと楽しそうな声を出したのだ。


 志乃は庭に出ると、仏壇に供えるための花をいくつか見繕う。

 今時期は花菖蒲(はなしょうぶ)が見頃を迎えていた。
< 32 / 273 >

この作品をシェア

pagetop