大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「今日は旦那様が遠出なさるので、一緒におにぎりをこしらえてくださいませんか? 志乃様のご実家の分もお持ちください」

「旦那様が?」

 志乃は驚いたような声を出す。

 死神のために、何か仕事を言いつかったのは初めてことだ。

 志乃は割烹着(かっぽうぎ)の袖をまくると、少しだけ張り切って、五木と一緒におにぎりを作りだした。


 炊きたての白米を、塩をつけた手で「あちち」と言いながらホカホカと握る。

 真ん中には五木のお手製の梅干をたっぷりと入れた。

 海苔を巻き、竹の皮に二つ並べる。

 その横に、これまた五木のお手製のぬか床から出してきた、たくあんを切ったものを三枚添えて紐で縛った。


「志乃様は、やはり手際が良い。お上手です」

 五木がにこにこしながら声を出す。

「そうでしょうか?」

 志乃は褒められことが嬉しくて、さらに張り切っておにぎりを握った。


「やはり箏が上手なだけあって、手先が器用なのでしょうな。良いことです」

 五木はほほ笑みながらそう言うと、干している竹の皮を取るために外へと出て行く。

 志乃は五木の背中を見ながら、五木に箏のことを話しただろうかと、小さく首を傾げた。
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