大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 それからも黙々とおにぎりを握り、気がついた頃には数えきれないほどの“おにぎり弁当”が目の前に出来上がっていた。

「旦那様は、こんなにたくさんのおにぎりを、どうされるのですか?」

 志乃が顔を上げると、五木は出来立ての弁当を、竹で作られた四角い籠に詰めているところだった。

「旦那様は定期的に、ある所に届けられているのです。心待ちにされている方も、おりますからなぁ」

「ある所……?」

 この弁当を心待ちにしている人たちとは、どういう人なのだろう?

 志乃が不思議そうに首を傾げていると、五木が「そうそう」と声を出す。


「これを志乃様の妹様たちに。旦那様からのお土産でございます」

 そう言って五木が志乃の手にのせたのは、何やらアルファベットが書いてある小さな紙の箱だ。

「これは?」

「チューインガムというお菓子だそうですよ。噛んで味を楽しむものだと言っておりました。とても甘いのだそうで、きっと妹様たちも喜ばれるでしょう」

「チューインガム……? そんな珍しいものを妹たちに。良いのでしょうか?」

「はい。どうぞお持ちください」

 志乃はまじまじとその色彩豊かな、外国の絵が描かれた箱を見つめる。
< 36 / 273 >

この作品をシェア

pagetop