大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

死神の本心

 花奏(かなで)は玄関に入った途端、屋敷の雰囲気がいつもと違うことに気がつく。

 置いているものは何も変わっていない。

 でも数日ぶりに帰ったこの屋敷の空気が、どことなく明るく穏やかなのだ。

 不思議に思い首を傾げた花奏だったが、ここ最近は外に泊まることが多く、そのためだろうと思い至る。


 なぜ屋敷に戻らなかったかといえば、それは新しい妻を迎えたからに他ならない。

 ただ、妻と言っても一時的なもので、時が来れば実家に戻ることになるだろう。

 だからこそ花奏は、妻となった者に、会わない方が良いと判断したのだ。


 するとぼんやりと立ち尽くす花奏の耳に、背後からフォッフォッと笑う声が聞こえてくる。

 いつも花奏の側に仕えている五木が、弁当を運んだ大きな籠を抱えながら入ってきたのだ。

 今日は久しぶりに療養所へ顔を出してきた。

 花奏はだいぶ伸びた自分の髪に触れると、もうあれから何年経ったのだろうかとふと考える。

 そして何年時が経っても、花奏の心はあの日から止まったまま動けずにいるのだと……。


「いかがですか? この家も、見違えるように明るくなりましたでしょう?」

 すると「よいしょ」と籠を置いた五木が、嬉しそうに笑顔を見せた。
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