大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「まあ、そうだな」
花奏は革靴を脱ぎながら、小さく答えた。
「ほらそこも、きちんと整頓されておりますでしょう? 志乃様は何事にもひたむきで、仏間の掃除だとて、本当に熱心にされるのですよ」
五木の声を聞きながら、花奏はつい最近妻として家にやってきた志乃という者の姿を思い出す。
――確かに、健気でとても素直な印象の娘だった。
花奏はそんなことを思うと、五木には何も答えず、そのまま自分の部屋へと向かった。
よく磨かれた廊下を進み、途中そっと仏間を覗く。
月明かりの差し込む部屋では、花菖蒲が優しい薄紫色の花びらを光に照らしていた。
ほのかに漂う草の香りと線香の残り香を感じながら、花奏は自分の部屋の障子を開ける。
部屋に入り電球を灯すと、目の前に普段花奏が着ている紬の着物が、羽織と共に衣紋かけにかけられているのが目に止まった。
どうも丁寧にアイロンをあてたのか、清々しいまでに皺ひとつない。
「志乃様が、疲れて帰ってきた旦那様が、心地よく袖を通せるようにとおっしゃって、丁寧にアイロンをあてておいででしたよ。紬ですし、必要はないのですがな」
再び後ろから五木の声が聞こえて来て、花奏は軽くため息をついた。
花奏は革靴を脱ぎながら、小さく答えた。
「ほらそこも、きちんと整頓されておりますでしょう? 志乃様は何事にもひたむきで、仏間の掃除だとて、本当に熱心にされるのですよ」
五木の声を聞きながら、花奏はつい最近妻として家にやってきた志乃という者の姿を思い出す。
――確かに、健気でとても素直な印象の娘だった。
花奏はそんなことを思うと、五木には何も答えず、そのまま自分の部屋へと向かった。
よく磨かれた廊下を進み、途中そっと仏間を覗く。
月明かりの差し込む部屋では、花菖蒲が優しい薄紫色の花びらを光に照らしていた。
ほのかに漂う草の香りと線香の残り香を感じながら、花奏は自分の部屋の障子を開ける。
部屋に入り電球を灯すと、目の前に普段花奏が着ている紬の着物が、羽織と共に衣紋かけにかけられているのが目に止まった。
どうも丁寧にアイロンをあてたのか、清々しいまでに皺ひとつない。
「志乃様が、疲れて帰ってきた旦那様が、心地よく袖を通せるようにとおっしゃって、丁寧にアイロンをあてておいででしたよ。紬ですし、必要はないのですがな」
再び後ろから五木の声が聞こえて来て、花奏は軽くため息をついた。