大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「五木、お前は俺の背後霊か何かか?」

「いえいえ、めっそうもない」

 五木は大きく(かぶり)を振ると、フォッフォッと笑いながら、花奏の背広の上着を受け取る。

 花奏の嫌味にもこんなに嬉しそうな顔をするところを見ると、五木は随分と志乃を気に入っているようだ。


 ――そういえば、弁当を食べた子どもが「このにぎり飯は特にうまい」と言っていたな……。


 ぼんやりとそんなことを思い出しながら、アイロンのあてられた着物に袖を通す。

 パリッとした着心地は、部屋で着るには少々清々しすぎる気もするが、自分の事を思い用意してくれた心根が、ほんのり嬉しく感じた。


 着替えを済ませた花奏は、書斎机の前に来ると、ふと置いてある手紙に目をやる。

 仕事関係の手紙の隣に、見慣れない封書が一通置かれていることに気がついたのだ。

 不思議に思いながら手紙を取り上げた花奏は、途端に目を丸くする。

 表には“死神の旦那様へ”と書かれていた。


「……死神の旦那様?」

 つぶやく様な花奏の声に、再び五木がひょいと顔を覗かせた。

「志乃様は、冗談もお上手ですなぁ」

 五木のフォッフォッという笑い声を聞きながら、花奏は椅子に腰かけるとそっと手紙を広げた。
< 41 / 273 >

この作品をシェア

pagetop