大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――だからこそ五木は、今までの者とは違う志乃を、いたく気にかけているのやもしれぬな。


 花奏がそう思っていると、五木が「……坊ちゃん」と静かに声を出す。

 五木が“坊ちゃん”と呼ぶときは、決まって説教するときだった。

 でも今の五木の顔つきは、それよりももっと慈悲深い。


「田所先生がお救いになりたいのは、志乃様のご家族だけでなく、坊ちゃん自身なのではございませぬか?」

 花奏は五木の言葉に一瞬戸惑う。

 五木は何を言わんとしているのだろうか。

「どういう意味だ……?」

 その真意がわからず首を傾げた花奏に、五木はただほほ笑むだけで、それ以上は何も答えてくれなかった。


 すると開けた障子から、ヒュッと風が吹き込み、花奏の長い髪を大きく揺らす。

 まるで心が揺れている自分を、たしなめるかのように……。


 しばらくして、戸惑う花奏の様子に気がついたのか、五木がポンと小さく手を叩いた。

「さぁさぁ、まだ夜は冷えますゆえ、旦那様も早くおやすみなさいませ」

 五木はそう言うと、静かに雨戸を閉じた。


 花奏は一人部屋に戻ると、志乃の手紙を再び手に取る。


 “死神の旦那様へ”


 花奏はその文字を小さく指でなぞると、そっと引き出しにしまい込んだ。
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