大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ほほ笑みながら炊事場へと戻っていく五木の背中を見ながら、志乃は冷たい井戸水で手をすすいだ。

 濡らした手ぬぐいで汗を拭きとると、とても爽快な気持ちになる。


 志乃は庭に面した縁側にちょこんと腰かけ、子どもの頃のように足をぶらぶらと揺らした。

 ふと振り返って部屋の中を覗くと、風を入れるためなのか、死神の部屋の障子が開いている。

 ぼんやりとその中を見た志乃は、途端にはっと目を見開き、部屋の中に身をのり出した。

 昨日アイロンをあてた着物は、確かに羽織と一緒に衣紋かけに引っかけたはずだ。

 でも今は、衣紋かけにかかるのは着物のみで、羽織は書斎机の椅子にかかっている。


 ――もしかして、旦那様がお帰りになったの……?


 急に死神の存在を近くで感じた志乃は、そわそわと落ち着きがなくなる。

 するとそんな志乃の前に、五木がのんびりとした足取りで現れ、お盆にのせたスイカを志乃の前に置いた。
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