大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 『実際に聴いたら、どんなにか素敵でしょう』


 確かに志乃は手紙にそう書いていた。

「……まさか、旦那様が?」

 志乃は途端に胸がいっぱいになり、思わず着物を抱きしめる。


 嫁いで以来、志乃に顔を見せることはなく、会いたいと言っても一度もそれが叶わなかった死神だ。

 手紙を書き続けた所で、返事が来るわけがないと、志乃もどこかで諦めていた。

 それでもこの贈り物を届けてくれた。

 死神は、ちゃんと志乃の手紙を読んでいたのだ。


「嬉しい……」

 瞳を潤ませた志乃は、再び着物とチラシを交互に見る。

 つまり死神は、この着物を着て演奏会に行って来いと言っているのだろう。

 目尻の涙を指で拭った志乃は、しばらくして、はたと顔を上げる。

 チラシには右上に御招待と、赤い印が押してあるのだ。


「もしかして……旦那様もここに行かれるのでは?」

 志乃は再びチラシを覗き込むと、すぐに日時を確認する。

 書かれた日にちは、次の日曜日だ。

 志乃は急いで立ち上がると、チラシを握り締めたまま炊事場へと駆けて行った。
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