大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「これは、私も行って良いということでしょうか?」

「もちろん、そうでございましょう」

「つまり、旦那様にお会いできると」

 志乃の勢いに、五木はフォッフォッと笑い声を立てると、興奮する志乃を落ち着かせるように、小あがりに腰を下ろさせた。


「志乃様。旦那様はご招待はされておりますが、実際に参加されるかは、私も存じ上げないのでございます」

「え……そうなのですか」

 志乃はうつむくと、じっとチラシを見つめる。


 ――やっと旦那様に、お会いできると思ったのに……。


 すると五木が優しくほほ笑みながら、志乃の顔を覗き込んだ。


「でも、せっかく旦那様がご用意なされたのですから、志乃様はお行きなさいませ。この日は、五木がご一緒しましょう」

「え? 五木さんが? 旦那様はよろしいのですか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。旦那様もきっと、五木は志乃様に付き添うようにとおっしゃるでしょう」

 志乃はにっこりとほほ笑むと「はい」と元気よく返事をした。


 そして次の日曜日、快晴の中、志乃たちは軍楽隊の演奏会を迎えたのだ。
< 54 / 273 >

この作品をシェア

pagetop