大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ふと舞台の横に目をやると、そこには来賓客が座るらしき座席も準備されている。


 ――旦那様は、あそこへ座られるのかしら……。


 志乃は次第に高鳴る胸をぎゅっと押さえる。

 まだ死神がここに来るかはわからない。

 それでも志乃の心は、さっきから期待で膨らんでいるのだ。


「志乃様、あちらに少し空きがございます。あそこに行かれては?」

 志乃は五木の声に押されるように、少し前の方へと一人で移動する。

 確かにここならば演奏も良く見えるだろう。

 志乃はぎゅうぎゅうの見物客に混じって、軍楽隊の到着を今か今かと待ち望んだ。


 しばらくして大きなファンファーレと共に、夏衣袴(なついこ)姿の軍楽隊の隊員たちが行進して現れ、舞台の定位置に立つ。

 半円を描くように整列した管楽器や打楽器を持つ隊員たちは、指揮者の合図で一斉に音楽を奏で出した。


 一気に響く音のあまりの迫力に、志乃は始め驚きすぎて心臓が止まるかと思ってしまう。

 それでも次第にそれは心地よく感じられ、志乃は見物客と一緒に演奏に夢中になった。
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