大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 演奏曲は聴き馴染みのある、軍艦行進曲などが中心であったが、中には外国の曲も演奏された。

 初めて聴くのに、どこか懐かしさを感じる曲が演奏され、志乃はその曲の事が知りたくて、後ろの五木を振り返った。


「五木さん、今演奏されているのは、何という曲なのですか?」

「私も曲名は存じ上げないのですが、確か外国の民謡、わらべ歌のようなものだったかと思います」

 五木の声に、志乃は納得したように大きくうなずいた。

「だから懐かしく感じたのですね」

「懐かしい?」

「はい。私にはそう聴こえました。きっと故郷を思う心は、私たちも外国の方たちも、同じなのだと……」

 志乃の言葉に、五木は始め驚いたような顔をしていたが、感心したようにほほ笑んだ。


 演奏もいよいよフィナーレを迎える頃、ふと来賓席に目を向けた志乃ははっとする。

 椅子に腰かけていた紳士が、こちらを見ているような気がしたのだ。


 ――まさか、あの方が旦那様……?


 そう思った途端、志乃は見物客の間を縫って、来賓席の方へと歩き出していた。
< 57 / 273 >

この作品をシェア

pagetop