大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃様! お待ちください! 勝手に動いてはなりませぬ!」
後ろで五木の声が聞こえた気がしたが、あの紳士が死神か確かめるのが先だ。
大音量の演奏が続く中、志乃は必死に人の波をかき分ける。
やっとのことで群衆を抜けたと思った瞬間、大団円を迎えた演奏に興奮した人々に押され、志乃は輪の外へとはじき出されてしまった。
「きゃ……」
悲鳴を上げながら態勢を崩した志乃は、咄嗟に手を出した誰かに、ぐっと腕を引き上げられた。
「ふう、間一髪でしたね」
すぐ側で声が聞こえ、志乃が慌てて顔を上げると、そこには若い将校が立っていた。
将校は突然飛び出してきた志乃に驚いたのか、白い軍帽を外すと冷や汗を拭う。
「た、大変申し訳ございませんっ」
志乃はぱっと将校の手から離れると、慌てて深々と頭を下げた。
将校は志乃のあまりの慌てように、あははと声をあげて笑うと「本当に、お気になさらずに」と優しそうな声を出す。
志乃は再び頭を下げてから、遠慮がちに目線を上げた。
後ろで五木の声が聞こえた気がしたが、あの紳士が死神か確かめるのが先だ。
大音量の演奏が続く中、志乃は必死に人の波をかき分ける。
やっとのことで群衆を抜けたと思った瞬間、大団円を迎えた演奏に興奮した人々に押され、志乃は輪の外へとはじき出されてしまった。
「きゃ……」
悲鳴を上げながら態勢を崩した志乃は、咄嗟に手を出した誰かに、ぐっと腕を引き上げられた。
「ふう、間一髪でしたね」
すぐ側で声が聞こえ、志乃が慌てて顔を上げると、そこには若い将校が立っていた。
将校は突然飛び出してきた志乃に驚いたのか、白い軍帽を外すと冷や汗を拭う。
「た、大変申し訳ございませんっ」
志乃はぱっと将校の手から離れると、慌てて深々と頭を下げた。
将校は志乃のあまりの慌てように、あははと声をあげて笑うと「本当に、お気になさらずに」と優しそうな声を出す。
志乃は再び頭を下げてから、遠慮がちに目線を上げた。