大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
死神からの拒絶
「志乃様、こちらを旦那様に」
五木はそう言うと、志乃に湯飲みの置かれた盆を手渡す。
「はい……」
志乃は盆を受け取ると、静まり返った廊下を、そろそろと花奏の部屋へと向かって進んだ。
軍楽隊の演奏会場で、志乃は初めて死神の正体を知った。
それは街の噂とは程遠く、穏やかで美しい人だった。
志乃は初めて乗ったガタクリと鳴る自動車の中で、風に髪を揺らす花奏の横顔をそっと見つめる。
花奏がなぜ今まで志乃に会おうとしなかったのか、なぜ今日だけ谷崎と話す志乃の前に姿を現したのか、理由は何もわからない。
自動車に乗って以降、花奏は硬く口を結び、腕を組んだままだ。
志乃はもう一度、あまりにも整って美しい花奏の横顔を伺った。
印象的な目は、静かに前を見つめている。
でも、その澄んだ瞳の中に時折映る、どこか悲しみを押し殺したような色は、死神と呼ばれる何か深い事情を、隠しているのではないかと思わせるのだ。
五木はそう言うと、志乃に湯飲みの置かれた盆を手渡す。
「はい……」
志乃は盆を受け取ると、静まり返った廊下を、そろそろと花奏の部屋へと向かって進んだ。
軍楽隊の演奏会場で、志乃は初めて死神の正体を知った。
それは街の噂とは程遠く、穏やかで美しい人だった。
志乃は初めて乗ったガタクリと鳴る自動車の中で、風に髪を揺らす花奏の横顔をそっと見つめる。
花奏がなぜ今まで志乃に会おうとしなかったのか、なぜ今日だけ谷崎と話す志乃の前に姿を現したのか、理由は何もわからない。
自動車に乗って以降、花奏は硬く口を結び、腕を組んだままだ。
志乃はもう一度、あまりにも整って美しい花奏の横顔を伺った。
印象的な目は、静かに前を見つめている。
でも、その澄んだ瞳の中に時折映る、どこか悲しみを押し殺したような色は、死神と呼ばれる何か深い事情を、隠しているのではないかと思わせるのだ。