大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――あそこは、旦那様のお部屋だったの……?


 志乃は戸惑いながら小さく首を傾げる。


 すると志乃の存在に気がついたのか、母屋へ戻ってきた花奏は、顔を上げると「志乃、こちらへ」と言った。

「はい……」

 志乃は小さく声を出し、そのまま廊下を進んで花奏の後をついていく。

 花奏は廊下を曲がると、突き当りの自分の部屋へと入って行った。


 遅れて部屋に入った志乃がそっと目線を上げると、花奏は書斎机の椅子に腰かけて、静かに顔の前で手を組んでいる。

 志乃はどきどきと高鳴る鼓動を感じながら足を進めると、花奏の視線を感じながら、そっと湯飲みを机に置いた。

 静かな沈黙が二人の間を流れ、たまらず志乃が声を出そうとした時、先に花奏が顔を上げる。


「志乃。お前はいずれ、実家に戻る身だ」

 突然の花奏の言葉に、志乃は大きく瞳を泳がした。

「実家に……戻る……?」

「そうだ。だからもう俺の事には構わず、お前は金だけもらって、与えられた仕事をしていればいい。そして母親が回復したあかつきには、遠慮なくこの家を去れ」
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