大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 落ち着いているが、どことなく突き放したような花奏の言葉に、志乃の心は激しく動揺する。

「待ってください。それはつまり、私は旦那様の妻ではなくなるということでしょうか……?」

 たどたどしく声を出す志乃に、花奏は静かに目を閉じた。


「俺は元々、姿を現す気はなかったのだ。会うこともなく、お前を実家に戻すつもりだった」

「え……?」

「お前だとて、こんな見ず知らずの死神の妻になるなど、望んでいなかったはず。俺やこの家の事は、きれいさっぱり忘れてくれて構わない」

 花奏はそう言うと、そっと椅子から立ち上がる。

 志乃は部屋を出て行こうとする花奏を、慌てて呼び止めた。


「待ってください。なぜそんなことを言われるのですか? 確かに初めは戸惑いました。でも旦那様に手紙を書くうち、ここでの暮らしを大切に思うようになりました。出ていく気など……」

 志乃がそこまで言った時、花奏が志乃の言葉を遮るように声を出す。

「それも、もう必要ない」

「え?」

 志乃は訳がわからず、花奏に聞き返した。
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