大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃の頬を、次から次に小さな涙の粒がつたっていく。

 気がつけば志乃は、声を殺して泣いていた。


 せっかく会えた“死神の旦那様”に、聞きたいことが山ほどあった。

 知りたいことも山ほどあった。

 でも、それを聞くことも、お礼すら伝えることも叶わぬまま、死神は志乃のことを拒んだのだ。


「やっとお会いできたのに。あの日、助けてくださった方が旦那様だったなんて、運命だと思ったのに……」

 志乃はしゃくりあげながら、両手で胸をぎゅっと掴む。

 胸が苦しくてたまらない。

 心が痛くてたまらないのだ。


 そしてその時、志乃はやっと自覚した。

 毎日死神に宛てて手紙を書いていた志乃は、自分でも気がつかない内に、死神への想いを大きく募らせていたのだということに……。

 そしてそれは今日、死神の正体が斎宮司花奏という人物だったとわかり、確かな恋心として志乃の中に生まれたのだ。


「それなのに……もうお別れだというのですか……?」

 志乃はそのまま、しばらくその場から動くことができなかった。
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