大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
離れの秘密
「おや? 志乃様。どうされましたか?」
うつむいて炊事場に戻ってきた志乃に、五木が不思議そうな声を出す。
志乃は口のつけられていない湯飲みがのった盆を、そっと台の上に置いた。
「旦那様は、お部屋にいらっしゃいませんでしたか?」
五木の問いかけに、志乃は声を出すこともできず、ただ首を横に振り、そのまま土間にしゃがみ込んだ。
今何か声を出せば、一緒に涙も零れてしまう。
さっきまでさんざん部屋で泣き、やっとここに戻ってきたというのに。
すると肩を震わせて涙を堪える志乃の耳元で、五木がポンと手を叩いた。
「そうそう。美味しいお饅頭をいただいておったのを、すっかり忘れておりましたなぁ。志乃様、お茶にいたしましょうか?」
五木はそう言うと、鉄瓶に入ったお湯を「よいしょ」と持ち上げ、とぽとぽと音をたてながら急須へ注ぐ。
程なくして、玉露の香りがほんのりとたち込め出した。
「さぁさぁ、志乃様。今時分は縁側も風が通りましょう」
五木は志乃に声をかけると、お茶の入った湯飲みを二つと、お饅頭がのった皿を盆に置き、縁側の方へと出ていく。
うつむいて炊事場に戻ってきた志乃に、五木が不思議そうな声を出す。
志乃は口のつけられていない湯飲みがのった盆を、そっと台の上に置いた。
「旦那様は、お部屋にいらっしゃいませんでしたか?」
五木の問いかけに、志乃は声を出すこともできず、ただ首を横に振り、そのまま土間にしゃがみ込んだ。
今何か声を出せば、一緒に涙も零れてしまう。
さっきまでさんざん部屋で泣き、やっとここに戻ってきたというのに。
すると肩を震わせて涙を堪える志乃の耳元で、五木がポンと手を叩いた。
「そうそう。美味しいお饅頭をいただいておったのを、すっかり忘れておりましたなぁ。志乃様、お茶にいたしましょうか?」
五木はそう言うと、鉄瓶に入ったお湯を「よいしょ」と持ち上げ、とぽとぽと音をたてながら急須へ注ぐ。
程なくして、玉露の香りがほんのりとたち込め出した。
「さぁさぁ、志乃様。今時分は縁側も風が通りましょう」
五木は志乃に声をかけると、お茶の入った湯飲みを二つと、お饅頭がのった皿を盆に置き、縁側の方へと出ていく。