大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃はゆっくりと顔を上げると、五木の丸い背中を見ながら外へ出た。

 うっすら日が傾き出した縁側は、五木の言った通り、風が流れている。

 志乃は縁側にちょこんと腰かけると、小さく息をついた。


 もう少ししたら、港には一時的に風がやむ、夕凪の時刻が訪れるだろう。

 人の心も風と同じように、凪いだり、吹いたりを繰り返しながら、いつかは通わせていくことができるのだろうか。


 ――でも、私と旦那様の心は、きっと通うことはない……。


 志乃は再び溢れそうになった涙を飲み込むように、湯飲みに口をつけた。

 渋みの中に広がるほのかな甘みは、志乃の傷ついた心に染みわたっていく。

 しばらくして、志乃はぽつりぽつりと口を開いた。


「旦那様は、私のことを(こころよ)くお思いでないのです……」

「志乃様?」

 五木は不思議そうな顔をしている。

「だってそうでしょう? 今まで旦那様に嫁いだ方は、皆亡くなっているのです。きっと私は、嫌われているから、今もこうやって生きている……」

 次第に声を震わす志乃に、五木は大きく首を横に振った。
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