大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃様、そんなことを言ってはなりませぬ。旦那様は、決して志乃様を不快に思ってなどおりませぬよ」
諭すような五木の声に、志乃はばっと顔を上げる。
「ではなぜ……? なぜ旦那様は、私を実家に戻そうとなさるのですか? もう自分に構うな、手紙もいらないなどと、突き放すようなことをおっしゃるのですか……?」
志乃の頬を涙が零れ落ち、眉を下げた五木は、志乃の背中を優しくさすりながら「そうですなぁ」と遠くを見つめた。
「旦那様はきっと、戸惑っておいでなのでしょう」
「……戸惑う?」
「はい。人は誰しも、臆病なのでございます。自分の心が、少しずつ変わっていくことに恐れるものでございます。そしていつかは、過去を忘れてしまうのではないかと、不安になるのでございます」
五木が言わんとしていることの意味がわからない。
「過去を……忘れる……?」
小さくつぶやいた志乃は、初めて会った時から感じていた、花奏の苦しげな表情を思い出す。
花奏の瞳にはいつも、深い悲しみと苦しみを押し殺したような色が映っていた気がするのだ。
それが花奏の過去と、繋がっているというのだろうか?
諭すような五木の声に、志乃はばっと顔を上げる。
「ではなぜ……? なぜ旦那様は、私を実家に戻そうとなさるのですか? もう自分に構うな、手紙もいらないなどと、突き放すようなことをおっしゃるのですか……?」
志乃の頬を涙が零れ落ち、眉を下げた五木は、志乃の背中を優しくさすりながら「そうですなぁ」と遠くを見つめた。
「旦那様はきっと、戸惑っておいでなのでしょう」
「……戸惑う?」
「はい。人は誰しも、臆病なのでございます。自分の心が、少しずつ変わっていくことに恐れるものでございます。そしていつかは、過去を忘れてしまうのではないかと、不安になるのでございます」
五木が言わんとしていることの意味がわからない。
「過去を……忘れる……?」
小さくつぶやいた志乃は、初めて会った時から感じていた、花奏の苦しげな表情を思い出す。
花奏の瞳にはいつも、深い悲しみと苦しみを押し殺したような色が映っていた気がするのだ。
それが花奏の過去と、繋がっているというのだろうか?