大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――旦那様は、何を抱えているというの……?


 戸惑う志乃に、五木は優しくほほ笑んだ。

「もう志乃様は、お知りになっても良いでしょう」

「何をですか……?」

「離れに何があるかです」

「離れに?」

 志乃は顔を上げると、さっき花奏が出てきた、庭の奥の離れに目を向ける。

 そして、今は戸が閉まっている離れの入り口をじっと見つめた。

 決して入ってはならぬと言われていたあの場所に、花奏の過去につながる何かがあるというのか?


「さぁさぁ。私はそろそろ、夕餉(ゆうげ)の支度でも始めますかな」

 すると五木は「よいしょ」と声を上げながら立ち上がると、そのまま炊事場の方へと歩いて行ってしまった。

 志乃は手のひらにのせていた湯飲みを盆に戻すと、そっと立ち上がる。

 そして吸い寄せられるように、離れの方へと足を向けた。


 離れの部屋は、障子がすべて閉じられており、外からは全く中の様子はわからない。

 志乃は庭を回り、恐る恐る建物に近づくと、木の戸の前に立った。

 入り口の取っ手に手をかけ、力を入れようとして、一旦思い悩んで手を離す。

 もしかしたら、花奏が中にいるかもしれない。
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