大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
隣の部屋からは、華と藤がきゃっきゃと声を上げながら母に甘える様子が見えていた。
「この病気は完治というのがなくてね。疲れが出たり、免疫が下がればまた暴れ出すこともある。お母さんにはくれぐれも無理をさせないようにね」
田所の穏やかな声に、志乃は「はい」と深くうなずいた。
志乃はしばらくの間、楽しそうにほほ笑み合う母や妹たちの様子を見ていたが、ふと脳裏に花奏の言葉が浮かんでくる。
『母親が回復したあかつきには、遠慮なくこの家を去れ』
その言葉を思い出した途端、志乃は胸がぎゅっと締め付けられたような気分になって、思わず下を向いた。
志乃の嫁入りは、母が療養している間の生活を支えてもらうためのもの。
母が回復した今、援助をしてもらう理由も当然なくなってしまう。
――つまり、私が旦那様の妻である必要も、なくなるんだ……。
母の回復を喜ぶ一方で、志乃の心が反比例するように沈んでいくのは、きっとそのせいだろう。
「この病気は完治というのがなくてね。疲れが出たり、免疫が下がればまた暴れ出すこともある。お母さんにはくれぐれも無理をさせないようにね」
田所の穏やかな声に、志乃は「はい」と深くうなずいた。
志乃はしばらくの間、楽しそうにほほ笑み合う母や妹たちの様子を見ていたが、ふと脳裏に花奏の言葉が浮かんでくる。
『母親が回復したあかつきには、遠慮なくこの家を去れ』
その言葉を思い出した途端、志乃は胸がぎゅっと締め付けられたような気分になって、思わず下を向いた。
志乃の嫁入りは、母が療養している間の生活を支えてもらうためのもの。
母が回復した今、援助をしてもらう理由も当然なくなってしまう。
――つまり、私が旦那様の妻である必要も、なくなるんだ……。
母の回復を喜ぶ一方で、志乃の心が反比例するように沈んでいくのは、きっとそのせいだろう。