大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 食事を共にし、身支度を手伝うこともあるが、花奏は必要以上に志乃に言葉をかけることはないし、志乃からも何も言えない日々が続いている。

 そして、離れに置いてある箏のことも、何も聞けずにいた。


「嫁ぎ先の暮らしはどうだい?」

 すると田所の声が耳元で聞こえ、志乃ははっと目を開けた。

「その……。暮らしはとても良くしていただいています……。でも……」

「でも?」

「私、旦那様に好かれていないのです。きっともうすぐ、実家に帰されてしまいます……」

 志乃の言葉に田所は小さく目を開く。

 そして「ほお」と声を出した。


「そうか。つまり志乃ちゃんは、実家に帰りたくないわけだ」

「え……?」

「今の口ぶりだと、志乃ちゃんは彼を好いているみたいだからね」

 楽しそうに口元を引き上げる田所に、志乃はぱっと頬を真っ赤に染める。


「そ、そういうわけでは……」

「じゃあ、どういうわけ?」

「そ、それは……」

 志乃は半ば泣きそうな顔で口ごもると、真っ赤になった顔を隠すように下を向いた。
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