大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「そうなったのには、花奏なりの理由がある。でもね、僕はもう十分だと思ってるんだ。これじゃあ、いつまで経っても花奏の心は救われない」

 志乃は田所の話の意図がわからず、小さく眉をひそめた。


「僕はね、志乃ちゃんなら、花奏を救えるんじゃないかって思ったんだ」

「救う? 私が……ですか?」

 田所の言葉に、志乃はますます訳がわからなくなる。

 助けてもらったのは志乃たちの方なのに、救うとはどういう意味だろう?

 田所は不思議そうな顔をする志乃に、寂しげに笑いかけた。


「志乃ちゃんなら、ただ一人、過去から動けなくなっている花奏を、救い出せるんじゃないかと思ったんだよ。花奏はね……」

 田所は口を閉ざすと、海の彼方へ目線を向ける。

 そしてしばし躊躇(ためら)った後に、そっと口を開いた。


「花奏はね、身内を病で亡くしてるんだ。志乃ちゃんのお母さんと同じ肺の病だよ」

 そう言った田所の横顔には、やるせないもどかしさが込められているような気がして、志乃はそれ以上何も聞けなかった。
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