大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

死神の戸惑い

「旦那様、良いのでございますか?」

 五木は花奏から渡された、厚みのある封筒を受け取ると、そっと中を確認する。

 そこには、かなりの額の紙幣が入っていた。

 五木はため息をつくと、もう一度顔を上げる。


「まだ母親は回復したばかり。そう急がずとも、良いのではありませぬか?」

 諭すような五木の声に、花奏は仕事の資料に目線を落としたまま口を開いた。

「これが志乃にとって、一番良い方法だ」

「そうでしょうか? 私には旦那様が、無理やりご自身に、そう言い聞かせているようにしか見えません。旦那様は、戸惑われているのです」

 五木の声に、花奏はぴたりと動きを止める。


「俺が、何に戸惑っているというのだ」

 顔を上げた花奏に、五木が一歩近づいた。

「お心が、次第に志乃様に惹かれていることにです」

「五木、お前は何を……」

 花奏は視線を泳がせると、五木から目を逸らす。

 五木は、さらに一歩花奏に近寄った。


「坊ちゃん……」

 そう花奏に呼びかけた五木の声は、わずかに震えて聞こえる。
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