大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 五木は小さくため息をつくと、受け取った封筒を盆にのせた。

「出過ぎたことを申しました」

 五木は丁寧に頭を下げると、丸く小さくなった背中で、部屋を出て行った。


 静かに障子が閉じられ、五木の足音が遠くに消えていく。

 花奏はその音を聞きながら仕事の手を止めると、書斎机の引き出しをそっと開けた。

 引き出しの中には、丁寧に重ねられた手紙が入っている。

 花奏はその“死神の旦那様へ”と書かれた手紙の束を、そっと指でなぞった。


 志乃に『もう手紙を書く必要はない』と、突き放すようなことを言って以来、志乃からの手紙は置かれていない。


 ――あれだけきつい言い方をしたのだ。当然のことだ……。


 花奏はそう自分に言い聞かせる。

 でもその一方で、自分は今でも志乃からの手紙を待っているのだと、痛いほどに気づかされる。


 ――自ら突き放す言葉を吐いておきながら、何てざまだ。


 花奏は大きくため息をつくと、椅子にもたれかかり天井を見上げた。


「五木の言う通りだ……」

 花奏の口から、言葉が漏れ出る。
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