大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃のことは、初めは何とも思っていなかったはずだ。

 新しい妻といっても、ただ金のためにここに来ただけの、それだけの娘だと。

 いずれ母親が回復すれば実家に戻る身。

 だから顔を会わせる必要もないし、興味を持つこともないと思っていた。


 でも、いつからか、机の上に手紙が置かれるようになった。

 いつも“拝啓 死神の旦那様”と、その言葉から始まる手紙は、日常のほんの些細なひとこまを綴るものであったが、その文章からは誠実でひたむきな志乃の、懸命に日々を生きる様が伝わってきた。

 そしていつしか花奏は、手紙を読むのを心待ちにし、今志乃は何に興味を持っているのだろうと、気になるようになっていた。

 “死神の旦那様”という文字を見る度、ほほ笑んでしまうほどに、志乃に惹かれていったのだ。


 花奏は手紙をそっと引き出しに戻すと、志乃のまだ幼さの残る顔を思い浮かべる。

 志乃がここに来てから、長い間止まっていた花奏の心が動き出したのは確かだ。

 そう思いながら、花奏は一旦首を振る。
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