大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 家の前には見覚えのある、使い込まれた自転車が止められており、玄関の引き戸が少しだけ開いているのだ。

 すりガラスの入った玄関からは、部屋の明かりがついているのがわかる。

 志乃は慌てて中へ駆け入ると、下駄を脱ぎ捨て、土間から奥の部屋へと向かった。

 バタバタと足音を鳴らし廊下を進むと、途端に下の妹の(ふじ)が障子を開けて飛び出してくる。


「お姉たんっ」

 藤は志乃の腰元に縋りつくように両手を回すと、「わぁっ」と声をあげて泣き出した。

「藤、どうしたの?」

 志乃は戸惑ったまま藤を抱え上げ、そっと茶の間を覗いた。

 そこには妹たちを見てくれていた隣のおばちゃんと一緒に、上の妹の(はな)が涙ぐんで座っている。


「あぁ、志乃ちゃん。良かった……。お母さんがね、ひどい咳で。今、田所先生が来られてるんだよ」

 おばちゃんはそう言うと、(ふすま)の奥にそっと目をやった。

「お母さんが……!?」

 志乃は息をのむと、藤を抱いたまま畳の上にペタンと座り込む。
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