大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 志乃が今日、実家に帰っていることは承知している。

 きっと志乃はそこで田所から、母親が無事に回復し、もう療養の必要はないと聞くはずだ。

 だからこそ、志乃に金を渡し、もうここに(とど)まる必要はないと告げなければならない。


「志乃はこの家を出る方が幸せなのだ。死神の側になど、いるべきではない……。もっと幸せになれる相手を選ぶべきなのだ。それが志乃のためだ……」

 花奏はそうつぶやくと、部屋の明かりをつける。


 ふと整理された志乃の文机に目をやった花奏は、その途端目を見開いた。


 “死神の旦那様へ”


 机には、そう書かれた封筒が、いくつも重ねて置かれていたのだ。


「まさか、ずっと書き続けていたのか……?」

 花奏はそろそろと近づくと、一番上にのせられている一通を手に取る。

 すると、はらりと何かが舞い落ちた。

 それを持ち上げた花奏は、はっと息を止める。


「これは……秋桜……?」

 それは薄桃色の秋桜を、押し花にしたものだった。

 その途端、花奏はひどく心が掴まれたような気分になり、手紙と押し花をそっと机に置くと、すぐに自分の部屋へと戻る。
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