大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「五木さん、一つ伺っても良いでしょうか?」

「はい、何でございましょう?」

「離れの箏は、どなたのものですか?」

 志乃の声に、五木はぴたりと手を止めると、「そうですなぁ」と小さくつぶやく。


「あの箏は、お亡くなりになった、旦那様のお身内の方のものなのですよね?」

 志乃の硬い声に、五木が細い目をさらに細めた時、ギシッと廊下を歩く音が聞こえた。

 慌てて顔を上げた志乃は、薄暗い廊下から現れた姿を見て、はっと息を止める。

「旦那様……」

 志乃はそうつぶやきながら、どうしようもなく自分の胸が、ぎゅっと苦しくなってくるのがわかった。


 そして志乃はその時、はっきり悟った。

 田所から話を聞き、ほんの少しだけ見えてきた花奏の過去。

 花奏を支えたいと思い、ここに戻ってきた自分の想い。

 それらすべての感情が一瞬で消えてしまうほど、ただ自分は花奏に愛されたいと願っているのだと。


 ――あぁ私は、心から旦那様をお慕いしている。


 すると下から見上げる志乃の手に、封筒が握り締められているのを見て、花奏が小さく息を吸うのが伝わった。
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